第19回 ジェンダー史学会 大会シンポジウム 「グローバル・ヒストリーとジェンダー」

2022年10月15日

2022年12月11日(日)13:30~17:30
立教大学 池袋キャンパス 14号館3階 D301教室

趣旨説明

グローバル・ヒストリーという概念が日本に登場して、ほぼ四半世紀が経つ。日本でも多くの歴史家が、グローバル・ヒストリーや「新しい世界史」の意義を論じて研究を展開し、ケネス・ポメランツ、パミラ・カイル・クロスリー、ゼバスティアン・コンラートらによるグローバル・ヒストリーの基本文献も翻訳されている。果たして、隆盛するグローバル・ヒストリーにおいて、ジェンダーやセクシュアリティの分析視座は備わっているのだろうか。他方、ジェンダー史学はグローバル・ヒストリーにどのように向き合い、どのような視座を獲得してきたのだろうか。

グローバル・ヒストリー、あるいは「新しい世界史」の定義はさまざまであるが、西洋中心史観からの脱却、国家の枠組みの相対化とグローバルな空間・文脈の意識、「反近代」「ポスト近代」、歴史の主体の多様性といった共通項をここでは押さえておきたい。そう考えるならば、これまでもトランスナショナル・ヒストリー、(国際)比較史、交流史、植民地の歴史、帝国の歴史、移動の歴史といった枠組みにおいて、女性史・ジェンダー史の研究は実り豊かに展開されてきた。

「グローバル・ジェンダー・ヒストリー」の叙述は可能か否か。そのような主題を大上段に構えつつ、「グローバル時代の歴史学」が探究される現在、本シンポジウムでは三名の報告者を迎え、研究の今と展望について議論を深めたい。

第一報告では、並河葉子氏に、西インドの女性の奴隷たちを対象として、奴隷からの解放とその後の生について論じていただく。奴隷制の時代と法的奴隷制廃止の時代の二つを比べながら、女性の奴隷たちの生が「自由」と「不自由」という観点から再考される。

第二報告では、嶽本新奈氏に、渡航先の性売買に焦点化されてきた「からゆきさん」を取り上げ、娼館を出てからの女性たちの経験を捕捉いただく。イギリスの海峡植民地にわたった元「からゆきさん」の足跡をたどり、経済的営為の定義と意味の再検討が行われる。

第三報告では、山本めゆ氏に、満蒙開拓団の女性について論じていただく。敗戦直後より性暴力を含めてさまざまな苦難に見舞われた彼女たちの対処は多様かつ非均質的で、それに対する日本社会のまなざしはしばしば冷淡なものだった。帝国の周縁における女性たちの非定形的な実践を把握・記述する方途が探られる。

これらの報告に対し、イギリス帝国史研究の観点から井野瀬久美恵氏に、『「ひと」から問う世界史』の編者という立場から三成美保氏にコメントをいただき、フロアも含めた全体の議論へと進む。

報告者:
並河葉子(神戸市外国語大学)「西インドにおける女性の奴隷の移動と自由と不自由」

嶽本新奈(お茶の水女子大学)「ある「からゆきさん」の語りからみる女性の経験」

山本めゆ(立命館大学)「無力な犠牲者か、創造的な主体か――満蒙開拓団の女性たちの敗戦と帰還から」

コメンテーター:
井野瀬久美恵(甲南大学) 三成美保(追手門学院大学)

司会:弓削尚子(早稲田大学)