2025 全国大会

ジェンダー史学会第22回年次大会
開催地 一橋大学(本館2階) ※対面開催(オンラインでの配信なし)
開催日 2025年12月7日(日)

第22回ジェンダー史学会年次大会は、2025年12月7日(日)に一橋大学にて開催いたします。
参加登録が必要です。下記のフォームから登録を行ってください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc3n0chReL-ph_CLmn9idXJHmLy8TeQbvGCH-jbCq_ZmQga1A/viewform

*本大会は対面参加のみで、オンラインでの配信はありません。
*シンポジウムのみ一般公開(非会員も参加可)します。自由論題報告は会員のみ参加可です。
*参加費は会員無料、非会員は一般1,000円・学生500円です。


大会プログラム

9時30分〜 (21番教室前)

午前 自由論題報告

部会A(20番教室)司会:長志珠絵
10:00 – 10:30 野依智子「戦間期の若松港における女性港湾労働者」
10:35 – 11:05 山崎明子「興望館の授産研究―「授産」として伝えられた「手芸」のジェンダー的意義の考察」
11:10 – 11:40 土田陽子「女学校同窓会と保育・幼児教育――戦後における教育事業の継承と変容」
11:45 – 12:15 坂口美知子「女性の就職と結婚:イギリス戦間期BBCのMarriage Bar (1932)と1980年代初頭の日本の都市部中流若年層女性の関連性」

部会B(22番教室)司会:古橋綾
10:00 – 10:30 辻大地「9-10世紀アラブ・イスラーム社会における性売買とその正当化言説」
10:35 – 11:05 山田朋子「大戦間期ポーランドの売買春と女性警察」
11:10 – 11:40 シンプリシオ・アナ・マリア「雑誌『婦人』における北村兼子言説について:「廃娼」批判と「娼廃」への主張」
11:45 – 12:15 山家悠平「元娼妓という自分語りからの「解放」―森光子「お賽銭の任務」(1932)にみるヒューモア―」

部会C(26番教室)司会:福永玄弥
10:00 – 10:30 大久保由理「「南進女性」はなぜ見えなかったのか──帝国の視線と表象の政治」
10:35 – 11:05 高内悠貴「米統治下沖縄におけるソドミー・パンパン・クィア」
11:10 – 11:40 髙橋奏音「米軍基地周辺地域における「パンパン」排除の検討――都市化の視点からみる砂川村風紀取締条例――」
11:45 – 12:15 中澤登水子「武力紛争下の性的な奴隷の罪と正犯責任―オングウェン事件判決を受けて―」

部会D(23番教室)司会:野村育世・須藤瑞代
10:00 – 10:30 川合真木子「アルテミジア・ジェンティレスキの伝記記述:近世イタリアの女性画家に関する叙述と評価について」
10:35 – 11:05 佐野元昭‐昭代「オスマン・アルメニア人女性の見た多宗派多民族空間の瓦解――ザベル・イェサヤンの1908年・1918年のアルメニア人虐殺ルポに基づいて」
11:10 – 11:40 野村さなえ「1930年代における女性解放運動の裾野:『婦人戦線』と犬塚セツの生涯から」
11:45 – 12:15 石黒久美子「酩酊する女性-池田みち子の飲酒にみるケア提供の放棄、依存、解放-」

部会E(24番教室)司会:石川照子
10:00 – 10:30 毛梓屹「台湾女性の政治参画に関する史的考察(19C末から1950年まで)–省籍別の異なる社会背景に着目して」
10:35 – 11:05 許逸菲「中華人民共和国建国直後の識字運動に「女性」はいたのか――「婦女識字班」の設立背景と運営実態について」
11:10 – 11:40 陳媛媛「李碧華『青蛇』における「宅闘」構造の再編――伝統的女性規範への挑戦」
11:45 – 12:15 辜知愚「歴史教育における「常識」の文化差とジェンダー視点の導入:日本の学生に中国史を教えるという経験から」

部会F (28番教室)司会:前川直哉
10:00 – 10:30 陣内恵梨「山口県萩市「女台場」と民謡「男なら」にみる神功皇后表象の変容」
10:35 – 11:05 井村亜矢「明治から昭和における伝統的な女性の役割―新聞求人広告の分析を通じてー」
11:10 – 11:40 平松亜衣子「欧米諸国における転向療法(性的指向・性自認矯正の試み)の実践とその帰結ーノルウェーにおける転向療法全面禁止を事例にー」
11:45 – 12:15 山田秀頌「性同一性障害特例法以前の裁判例と法学論文が語るもの:性分化疾患との境界、セックス/ジェンダー区別と戸籍制度への問い」

部会G(パネル)(25番教室)代表:池川玲子
10:00 – 12:15 パネル題目「21世紀的治安危機と女性警察官―米英日のケースから」
杉村使乃「イギリスの21世紀的治安危機と女性警察官―ロンドン同時爆破事件からオリンピックに向けて 」
平塚博子「アメリカ警察の軍事化とブラック・ライブズ・マター運動―ポスト9.11のアフリカ系アメリカ人女性警察官」
池川玲子「アフガニスタン女性警察官能力構築支援プロジェクト」への日本の女性警察官の協力」
司会・ディスカッサント:桑原ヒサ子

総会 12:30 – 13:15 (21番教室)

午後 大会シンポジウム 13:30 – 17:30 (21番教室)

シンポジウム「暴力・トラウマと男性性の歴史」
*非会員の受付は12時30分より開始します。

報告者:
中村江里(上智大学)「日本における戦争のトラウマと復員のジェンダー史」
星乃治彦(津田塾大学)「小津安二郎の戦争トラウマ」
坂下史子(上智大学)「「南部黒人男性にのしかかる脅威」—アメリカにおけるリンチ、トラウマ、抵抗」
コメンテーター:北村陽子(東京大学)、小川公代(上智大学)
司会:松原宏之(立教大学)

趣旨説明:
現下の状況は、暴力がなにをもたらすのかについての歴史研究を要請している。暴力は物理的に身体を毀損するばかりではない。トラウマ(心的外傷)は暴力が心の統合能力をも破壊することを指し、その破壊力は、暴力が幾重にも社会的に規定されることに起因する。そして、ジュディス・ハーマンの指摘を俟つまでもなく、その深層にはジェンダーが関わることが知られている。暴力とそれがもたらす痛みを理解し、それに対処しようとするなら、その歴史的な過程への洞察が欠かせないのである。
本年度大会企画ではとくにマスキュリニティとの関係にクローズアップをかけてみたい。トラウマがいかに認識され、論じられてきたのかもまた、歴史的であり、ジェンダー化されてきた。フェミニズム運動の成果もあり、性暴力に伴うトラウマについては、各分野で多数の研究成果が蓄積されてきた。歴史学においても、性暴力の研究は進展してきた。だが、男性の暴力経験とそのトラウマを、「男性の」経験として、すなわち男性性という視点からジェンダー史として批判的に検討する作業は、近年ようやく盛んになりつつあるといえる。
そこで本シンポジウムでは、歴史の中の暴力の経験とトラウマという問題を、男性性との関係に焦点を当てて検討し直すことを目標としたい。
中村江里は、第二次世界大戦後の日本軍将兵の復員過程を、その多数を占めた壮年期の男たちの感情とトラウマに着目して考察する。続いて星乃治彦は、小津安二郎の従軍経験と戦後のトラウマ症状とに注目しながら小津作品をその男性性との関わりを解き明かす。最後に坂下史子からは、20世紀米国南部社会における黒人男性へのリンチへと射程を伸ばして、この儀礼的な処刑がいかなるインターセクショナリティをともなって作動したかの分析を得る。歴史学の北村陽子、文学の小川公代からのコメントとともに、フロアとともに議論を深めたい。

報告要旨:
中村江里(上智大学)「日本における戦争のトラウマと復員のジェンダー史」
アジア・太平洋戦争終結時、国内外あわせて719万人の男性たちが陸海軍に動員されており、その割合は20歳~40歳の男性の約6割にも上った。シベリア抑留などの一部の例外を除き、1948年には日本軍将兵の復員の手続きがほぼ完了したが、その迅速さとは裏腹に、復員軍人の戦後社会への包摂には様々な困難も存在した。本報告では、彼らのトラウマや感情に注目しながら、ジェンダーの視点で復員という現象を考察する。

星乃治彦(津田塾大学)「小津安二郎の戦争トラウマ」
映画監督小津安二郎は、日中戦争開始後まもなくして召集され、2年間、激戦地で毒ガス部隊の小隊長として戦った。帰国後、その言説は次第に時空の歪みを伴うようになり、アルコール依存も深刻となった。「回避」という戦争トラウマ症状も抱え、それが戦後の小津作品の「静謐」を現出させたと考えられる。小津は同時に、「男は黙って」「24時間戦えますか」といった寡黙な戦士を理想とする戦後の「男」の典型でもあった。

坂下史子(上智大学)「「南部黒人男性にのしかかる脅威」—アメリカにおけるリンチ、トラウマ、抵抗」
本報告は、再建期後から20世紀前半にアメリカ南部で頻発した黒人男性に対するリンチのうち、残虐な公開処刑の形をとった儀礼的なリンチにおけるトラウマ的経験と男性性の関係を考察する。リンチと抵抗運動の歴史では犠牲者の圧倒的多数を占めた黒人男性の事例が中心的に検討されてきたが、黒人女性の経験にも触れることで、この暴力における人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティの交差を描出したい。